いにしへの奈良の都の八重桜

   今宵ばかりは 墨染めに咲け

あとがき

 私がこの話を書いたのは今から4年半ほど前のことです。
 当時は大学生で、文芸部で『虚空の風』という長編小説を書いていました。主人公は車椅子に乗った天邪鬼な司令官、殺人しか能の無い軍事官、美貌のマッドサイエンティスト等々、とにかく自分勝手な奴ばかり。
そんな奴らに対するアンチテーゼのように、この外伝は生まれました。

 誰かのために戦う。誰かのために命を落とす。それがどんなに潔くて崇高な行為であるのか、そして同時に悲しい行為であるのか。
 死んだ者は満足かもしれません。「守った」という誇りを抱いて、死んでいくわけですから。
 でも、遺された者は「守られた」という事実に永遠に縛り付けられて、その後を生きていくのです。

 アウリヤはとても強い女性で、本当なら「守る」立場にある人物です。それだけの実力と勇気を兼ね備えています。
 そんな彼女が一転して「守られた」立場になってしまい、その呪縛の中で無力感に苛まれながら生きていく。
 血筋が理由なだけに、本人の人格を全否定してしまうような結末です。

 というのが、最初書いた時の自分なりの感想でした。
 しかし、今回の編集ではラストの書き方を変更しました。
 アウリヤが「守られた」という事実はより強調したのですが、彼女の心の強さが失われることはありません。どんな経緯があったにせよ、民の上に立つ者としての自覚を持ち、未来へと緋色の視線を投げかけている。
 そんなラストを目指しました。

 以前の暗く救いようの無かった話に光明を与えてくださったのが、いつもお世話になっている八尋様です。
 アウリヤを描いて下さり、その前途に光あれと、未来を祝福して下さいました。
 そこで初めて、私はアウリヤの人格をもう一度考え直したのです。
 彼女ほど強靭な心と人徳に優れた人物が、一国の為政者となることに無力でいるはずがない。守られた、守れなかったという無力感は忘れられないけれど、その痛みをバネにして、より強く生きていこうとするのではないかと。
 そして、今回の編集に至ったわけです。
 更に描いていただいたイラストを強奪するという、欲張りっぷり!
 八尋様にはいくらお礼を申し上げても、感謝し切れません。本当に本当に有難うございます!

 八尋様から賜りました作品は、贈答品【賜り物】に展示させていただきました、こちら「行く道に光あれ」です。

                                    終

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