中臣鎌足【なかとみのかまたり】(614 〜 669年) / Copyright (c) 2007-2008 夕陽@魔女ノ安息地 All rights reserved.

(@ 中臣御食子)
A 最高の好敵手 蘇我入鹿
運命の出会い。それは決して生涯を共にするようなものではありませんでした。
学問僧の旻(みん)の私塾で学ぶ鎌足の前に、颯爽と現れたのは蘇我入鹿(そがのいるか)。
指南者の旻は入鹿について、「私の塾で学ぶ者に、入鹿ほど優秀な者は居ない」と言っています。
入鹿ってば、超優等生だったのですね。
もちろん、旻のこのセリフは蘇我氏に対するゴマすりの可能性も有ります。
当時の蘇我氏の頭領は蝦夷、入鹿のパパです。
蘇我氏の権力掌握の歴史はそんなに古くはありません。
名前は稲目(蝦夷の祖父)辺りから有名ですが、彼は物部氏との宗教闘争に敗れ、失意の内に亡くなります。
その息子・馬子は次の物部氏頭領・守屋の妹を妻とし、一時は和解の姿を見せますが、
同族の額田部皇女(ぬかたべのひめみこ、後の推古天皇)や厩戸皇子(うまやどのみこ)と共に、物部氏と大戦争。
守屋を殺し、政権を手に入れます。
【家系図】
稲目
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馬子 小姉君(欽明妃) 堅塩媛(欽明妃)
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|____ 間人皇女=大兄皇子(用明天皇) 額田部皇女(推古天皇・敏達皇后)
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蝦夷 刀自古郎女=厩戸皇子=======菟道貝蛸皇女
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入鹿 山背大兄王
元々蘇我氏は朝鮮半島から仏教を熱心に輸入するなど、最も国際通な豪族でした。
渡来人との交流も盛んで、朝鮮や中国の文化や技術を進んで取り入れていました。
もちろん、輸出入にはお金がモノを言うわけでして、蘇我氏は超大金持ちでもありました。
そもそも稲目は自分が確保した海外取引ルートを守るために仏教の国家的保護を大王に求めたのであり、
それに対し、神教を通じた国内商業ルートを持っていた物部氏や大伴氏などが反発したのでしょう。
いつの時代も、政治と金と宗教はなかなか切り離せないのであります。
そんなわけで、入鹿の青年期には既に蘇我氏の権力は確立していました。
亡き祖父・馬子は皇族との政略結婚やら豪族の買収やら敵の暗殺(大王まで殺したな…)やら、色々やりまくって、
稲目の築いた土台があったとは言え、ほとんど一代ですべてを成し遂げてしまいました。ワンマン社長だね。
その息子・蝦夷の代でもその影響力は残っています。
莫大な財産、広大な領地、蘇我氏の血を引く皇族達、付き従う豪族、等々。
唐へ留学して来た学問僧である旻が、富もネットワークもある蘇我氏の嫡男・入鹿を贔屓するのは、
非常にわかりやすいゴマすりであると言えます。
もしかしたら、入鹿は大したことないけれど、わざと褒めたのかも……
と言いたいところですが、そうはならなかったりする!
入鹿が優秀であること、そしてその事実を鎌足が認めているのは間違いないのです。
実はこの旻の言葉を書き伝えているのは、なんと『藤氏家伝』なのです!
鎌足のスバラシサを讃えたいはずの藤原氏が、入鹿の超優秀さを書き残しているのです。
何故か。答えは簡単です。
入鹿が本当に優秀であり、その事実は広く知られていたからです。
時代が飛鳥から奈良時代に変わっても、世間一般の人々には入鹿のスバラシサが伝わっていた。
傍若無人で自己中で、三度の飯より藤原氏が大好きな藤原仲麻呂でしたが、
さすがに曾祖父・鎌足の宿敵である入鹿の優秀さを否定できなかったのですね。
また、入鹿に対して悪意メラメラで書かれている『日本書紀』にも、入鹿の政治のスバラシサが見えます。
「大臣(蝦夷)の息子である入鹿は、自ら国政の頂点に立ち、その勢いは父・蝦夷よりも凄い。
そのせいで盗っ人達は恐怖に陥り、道の落とし物さえ盗もうとしなくなった」
今で言えば、「道で百円玉を見つけても、誰もパクろうとしない」ってことですよ!
彼は飛鳥の街を整備し、泥棒に対しては罰則を設けて、市民の安全を守ったのですね〜。
パパ・ミケコさんをはじめ、中臣氏からに蘇我氏に対する悪口を聞かされまくっていた鎌足さんは、
実際に入鹿に会ってみて、驚いたと思います。
頭の回転の速さはモチロン、異国(唐)の制度に対する造詣の深さ、新しいものを貪欲に取り入れる勤勉さ。
アレっ? 誰かに似ていますね。
そうです! 入鹿って、その本質は鎌足さんとそっくりなんです。
一方は落ちぶれた家の家出息子。一方はトップ豪族の御曹司。全然立場が違う二人ですが、実は似た者同士。
似た者同士で仲が良かったかと言うと、そうではない。
この手の人間は、自分に似た人間を見つけるとライバル心を剥き出しにします。
常に相手も同じような思考回路で臨んで来るものだから、厄介なこと限りなし。
相手の一挙一動が無意識にも気になってしまう、若きお二人さんでありました。
考察はここまでで終わりですが、ちょっと遊んでみましょう。
現代バージョンに置き換えると、こういう感じです。
ある有名進学校X高校があると思って下さい。
ちなみに男子校です。(旻の私塾に女子生徒はいないからね)
別の地域から転校して来た中臣君は、前の学校Y高校(モチロン、進学校)では一番の成績でした。
ところが、X高校に来てからはどうしてもクラスメートの蘇我君を越せず、二番に甘んじています。
数学の時間、超難問を解かされれば二人だけが解答できて、答えはまったく一緒。
古文を現代語約すれば、一字一句違いなし。英語でもまったく同じことです。
それなのに、どうしてこうして、中臣君の総合成績は二番なのです。
理由はわかっています。担任の旻先生は蘇我君を贔屓しているのです。
蘇我君のパパはX高校に多大な寄付をしている大物政治家だからです。
自分には実力があるのに認めてもらえない。中臣君はちょっとだけ落ち込みました。
中臣君と蘇我君が成績のライバル関係にあるのは、皆が気づいていることですが、
果たして蘇我君自身は中臣君のことをどう思っているのでしょうか。
ライバルと認めてくれているのでしょうか。
それとも、歯牙にもかけていないのでしょうか。
悶々としながら一人廊下を歩く中臣君の耳に、ふと空き教室の声が耳に入りました。
その教室は蘇我君とその取り巻きが駄弁るのに使っている場所です。
会話が聞こえてきて、中臣君はムッとしました。
蘇我君の取り巻き達が自分の悪口を言っているのです
さっさと立ち去ろうと思った中臣君ですが、蘇我君がどういう反応を見せるのがか気になり、
扉の影に隠れて耳を澄ましました。
取り巻きの発言に対して、いよいよ蘇我君が口を開きます。
A「はぁ? 中臣かよ。放っておけ。どうせ、俺様には敵わないのさ★」
B「中臣か。あいつは、俺の唯一無二のライバルさ☆」
さあ、あなたはどっちの入鹿を選びますか?
ゴメンナサイ、遊び過ぎました(苦笑)
(中臣鎌足考察A「最高の好敵手 蘇我入鹿」 終わり)
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(B 宝女王&葛城皇子)
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